概要
ゲノム配列が明らかになったことを背景に、多数の遺伝子の活動や変異を測定することが可能なバイオチップに関する技術開発が世界各国で進んでいます。これまでバイオチップの利用は、ヒトの遺伝子全体を対象として網羅的に解析するような、研究用としての利用に限られてきました。しかし最近では、このようなバイオチップの技術を、食品などの検査や病気の診断など、健康・医療産業に利用する動きが活発化しており、欧米では既に、日本の厚生労働省に当たる保健社会福祉省管轄の食品医薬品局(FDA)によって承認された診断機器としてのバイオチップも市場に出回り始めています。
しかし、バイオチップは、そのメーカー毎に、蛍光色素を用いたり、電位の変化によって測定を行ったりと、測定原理も実験手法(以下総称してプラットフォームと呼ぶ)が異なるため、個々のメーカーのチップを用いて得られた結果を、単純に相互に比較・校正することは不可能でした。この問題を解決するためには、測定の品質を担保するための測定プロセスの管理方法や、また結果の比較のための基準となるDNAなどの物質(いわゆるモノサシ)を定めるような“標準化”が不可欠であると考えられます。
今回、経済産業省・NEDOより受託した標準化を目指す研究開発事業において、バイオチップによる測定のための標準プロトコールを策定し、それに基づいて各社のプラットフォームを用いた測定を行っております。また標準物質については、産業技術総合研究所が研究開発を進めてきた、遺伝子の活動や変異を探るための標準となるDNAの塩基配列の提供を受け、その塩基配列をもつ合成DNAを用いて測定を行っています。特に合成DNAについては、標準物質だけでなく、チップを構成するすべての遺伝子について、DNA合成後の配列確認を含めた品質管理システム策定の基礎データを取得することを目指し、様々な品質保証の項目についての検討も進めています。
その結果、標準物質のデータをモノサシ(基準)として、複数のチップ測定方法のデータを相互比較し、対象サンプルを用いた測定に関して、(1)今回用いた6種類のバイオチップでは、ほぼ同様の測定結果が得られること、(2)活動の低い遺伝子については、バイオチップ間でのばらつきが大きいこと、(3)海外のメーカーのバイオチップと比較しても、国産メーカーのチップが、感度、精度とも遜色ないことを実証いたしました。
欧米においても、MAQC(MicroArray Quality Control)を始め、バイオチップに関する標準化は進められていますが、プラットフォーム間の相互比較については可能性に言及されているに留まり、標準物質を用いたクロスプラットフォームによる実験は行われておりません。標準化のためには、標準物質とクロスプラットフォームによる校正の実証実験を積み重ねるとともに、バイオチップ測定に関するISO原案を作成して提案する等、今後ともこのような試みを継続し、バイオチップの標準化で世界をリードしていく予定です。

