定義

 バイオチップとは、バイオ分子(DNA、たんぱく質、糖鎖)を基板上に多数固定したもので、チップ上のバイオ分子と特異的に相互作用する標的分子や化合物などを、大量かつ同時並行的に検出できるデバイスです。そのうちDNAが固定されたものをDNAチップ、或いはDNAマイクロアレイと呼びます。この他、マイクロ流路を用いた分析システム(ラボオンチップ)もバイオチップの一つとして考えられています。

用途

 今日のバイオチップ市場を主導しているのはDNAチップで、遺伝子発現(細胞内で活性化している遺伝子を知ることで病気の症状を詳細に理解する技術)やSNP解析(一人一人の遺伝子の違いを見分け、病気のかかりやすさや薬の効き方、副作用などを予測する)など、創薬や新薬開発の有力なツールとして使われております。また、外部から侵入した微生物やウイルスの遺伝子を調べることで、疾病の原因となっている病原体の同定やインフルエンザウイルスなどの型判定にも利用することができます。体外診断用としては2007年に米国食品医薬品局(FDA)ががんの転移再発の判定用キットの販売承認を与えたのを始めとして、国内では子宮頚がんの原因となるヒト・パピローマ・ウイルス(HPV)の型判定用チップが認可されるなど、医療用の市場が広がり始めています。さらに、食品検査の分野でも、食品の遺伝子配列からブランド判定や微生物汚染の検出など新たな市場の広がりが期待されており、2桁や3桁といった急速な産業規模の拡大が見込まれています。
 

原理(例 DNAチップ)

 DNAチップでは、あらかじめ塩基配列の明らかな1本鎖のDNAを多種、基板上に配置しておき、これに検体を反応させることで、検体のDNA配列と相補的な塩基配列の部分にのみ検体のDNA鎖が結合することを利用しています。検体の結合位置は蛍光や電流によって検出され、そこに固定されているDNAの配列から検体に含まれるDNAの配列を知ることができます。
 

製造方法

 DNAチップの作成には2つの方式があります。ひとつは固相反応化学技術を使用して基板上でオリゴヌクレオチドを人工合成する方法で、数万から数十万の遺伝子発現を一度に調べることができます。
 



 
米国のアフィメトリクス社やアジレント社のチップはこの方法により製造されています。もうひとつは、あらかじめ調整されたDNA断片、或いはオリゴヌクレオチドをピンやインクジェットにより基板上に打ち付けて固定する方法で、日本のDNAチップ企業の多くはこの方法を採用しています。
 


日本の強み

 日本では、東芝東レ三菱レイヨン(三菱ケミカル)横河電機が臨床市場の急速な拡大を見込んで新規参入を準備しています。日本企業の強みである広範なマイクロエレクトロニクスとマイクロメカトロニクスの技術を遺伝子分析に生かすことで、少量のサンプルから迅速に簡便に解析する技術を開発しています。日本企業の得意とする「ものづくり」技術による高品質なチップの提供、そしてそれを用いたデータの信頼性と再現性の確保により、これまで指摘されてきた臨床診断への応用に向けた課題がクリアできるのではないかと期待されています。